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冒頭、小説家・衣笠幸夫(本木雅弘)が、妻で美容師の夏子(深津絵里)に髪を切ってもらっている。このシーンで、なんとなく二人がぎくしゃくしていることと、幸夫が作家として成功していることがわかる。幸夫は広島の鉄人・衣笠祥雄選手と同姓同名であることを気にしている。偉大な選手と同じでは、名前負けしているようで嫌なのだ。妻に人前でサチオくんと呼ばれることも気に食わない。いや、場の空気から察するに、サチオくんは妻のことが気に入らないのだ。妻といると、悪態をつきたくなる状態だ。思い当たる方も多いだろう。
散髪のあと、夏子は親友と旅行に向かう。バスを使っての旅だ。その間、サチオくんは愛人と一夜を過ごす。朝、TVニュースを見るともなく見ながら、その子といちゃつく。TVでは、事故のニュースが放映されている。バスがガードレールを突き破って、崖を転落。冬の冷たい湖に沈んだ痛ましい事故だ。サチオくんは自分には関係のないことだと思っている。警察から電話がかかってきてはじめて、自分も事故に巻き込まれたことを知る。
妻の遺品を、サチオくんはどんな思いで手にとったのだろう。
個人的に、スマホはすぐに壊れるチャチな代物だと思っているが、事故に遭っても、夏子のそれは原型をとどめていた。なのに、持ち主である人間のほうは命を失った。人間は決して強くないのだ。状況次第では、スマホより貧弱だ。
妻の葬儀のあとで、サチオくんはネットで自分がどう見られているか調べる。エゴサーチというやつだ。有名人は大変だ。妻の死より、妻を失った自分に関心を持つ。
妻がいなくなり、サチオくんの部屋は荒れる。カオスの域に達する。夏子は管理者だった。不倫のことなど、とうに知っていたに違いない。だらしない人間に、浮気を隠すことなど、できやしない。
サチオくんは淡々としたものだが、夏子とともに事故で亡くなった親友の夫・大宮陽一(竹原ピストル)は感情をむき出しにするタイプだ。陽一からの連絡を受けて、サチオくんは食事をともにする。大宮の子供二名(息子と娘)も同席する。子供は母を失ったのだ。こういうシチュエーションには泣けてくる。サチオくんも同情したのか、週に二日、大宮家の子供の面倒を見たいと申し出る。
子供の相手をするのはなかなか難しいものだが、二人ともいい子だし、サチオくんも優しいし、擬似的な家族関係はうまくいく。サチオくんに、いい変化をもたらす。彼らとの交流はサチオくんの喜びになるが、不意に、妻の不在が重くのしかかってくる。それは、海辺のシーン。サチオくんの脳内で美化されているのか、波打ち際の夏子はひときわ美しい。
が、このあと、サチオくんは、妻の本音を知ることになる。
個人的な好みの問題だが、トラックに乗った父子を見送るシーンで、うまいことまとめて終わってほしかった。映画としてそのほうがいいとか、そういう話ではなく、個人的な感想だ。