サレンバーガー機長(トム・ハンクス)は、鳥の群れを巻き込んだことでエンジンが停止した旅客機を、ハドソン川に不時着水させた。犠牲者はゼロ。当初マスコミに英雄扱いされるけれど、風向きはすぐに変わる。
『フライト』の破天荒な機長とは違い、本作品の機長は品行方正・優秀だが、事故調査においては、否定的に扱われる。調査委員が、機長の過失を探るような質問を機長本人に浴びせるのだ。飛行機事故では、機体に欠陥があったとはなかなか認めない。責任は航空会社ではなく、個人に向けられる。飛行機に不備はなかった、ミスをするのは人間に決まっている、というわけだ。厄介なのは、マスコミも調査委員会に同調して、機長とその家に押しかける点だ。家族にとっては、試練のときである。
調査委員会では、実はエンジンが動いていただの、航空技術者のほうが正しいだの、シミュレーションでは飛行場に引き返せただの、なんやかんやケチをつけて、不時着水は機長の判断ミスという結論に傾いていた。それはサレンバーガーの記憶とは違う“事実”だった。おそらく、視聴者は正しい人が非難されるのは許せない、という気持ちになるだろう。ぼくも含めた普通の人々は真実が曲げられるのを好まない。どうにも気分が悪い。もちろん、作り手側はそんな観客の心理を百も承知している。
乗客は全員無事で、悪人はいないにもかかわらず、事故シーンではハラハラさせられた。航空機の事故が恐ろしいものだと潜在意識に刷り込まれているせいだろう。
移動速度と距離の向上により、ずいぶん便利な世の中になったが、それだけリスクも増した。リスクを回避するためには、まだ人間の力が必要である。本作品では有能な機長の適切な判断により、墜落を防ぐことができた。まさに不幸中の幸いだ。
監督はC・イーストウッド