30年ほど前、ミッキー・ロークは二枚目だった。
しかも、危険な薫りを漂わせた男前だった。見るからに悪そうで、怪しいのに、魅力的だった。
そのミッキーが、笑われ者になる日がやってくる。東京でのボクシングの試合。その日、偶像は地に堕ちた。みんなが思った。
だっせ
それほど、試合はひどかった。せめて猫パンチでなかったら…いや、そもそも、なんのために八百長をやったんだか。もはや彼は二枚目ではなかった。ハッタリ猫パンチ変なトランクス野郎だった。以来、大好きだった『エンゼル・ハート』を観返そうとも思わなくなったし、ミッキー目当てで映画をチョイスすることはなくなった。
今回、ミッキー主演だからという理由で映画を選んだわけだが、率直に言うと、観てよかった。観る価値のある映画だ。
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ランディ“ザ・ラム”ロビンソン(ミッキー・ローク)は国民的プロレスラー、国民的ヒーローだった。過去形だ。ピークから20年過ぎても現役を続けているが、かつての栄光は微塵も感じられない。
ファイト・マネーだけでは生活できないので、パートをしている。平日は倉庫で働き、週末はリングに上がる。
控え室で、レスラーたちは打ち合わせをする。客を盛り上げるために、対戦相手と試合の展開について話し合う。もちろん、単なるやらせではない。プロレスはショーなのだ。屈強な野郎どもが魅せてくれる夢の舞台だ。
リングに立ったラムは、客を沸かせるために、自らの額を傷つけて血を流す。プロである。だんだん、かっこよく見えてくる。今さらだけど、ミッキー・ロークって、すごい俳優なんだな、と。この人、もしかしたら何かとんでもないものを抱えているのかも、と。
劇中の試合を見て改めて、プロレスは鍛えあげられた男どもにしかできない仕事だということがわかった。だから客は目の前で繰り広げられる“お約束”に歓声をあげるのだ。
試合後、ラムは満身創痍だが、控え室に戻ると、出番を終えた選手や出番を待つ選手から拍手で迎えられ、対戦相手からは握手を求められる。実績だけではなく、彼の試合が素晴らしいからだ。
だがラムの体は既に限界にきていた。医者にプロレスを止められる。だがラムにはプロレスの他にできることがない。したいこともない。愛する娘には嫌悪される。不器用な男が選んだ道は…