邦画を観てきて、中井貴一率がひじょうに高いことに気がついた。本作品では主演だが、脇役でも遺憾なく存在感を発揮している。正直な話、大ファンに出会ったことはないが、嫌いな人に会ったこともない。でもきっと、中井貴一さんの代わりが務まる人は、おいそれと見つかるまい。
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主人公・筒井(中井貴一)は成功したサラリーマンだ。サラリーマンには色々いて、一流企業で出世街道を突っ走る人もいれば、毎夜酒を飲んでぐだぐだ愚痴を垂れ流すだけで最低限の仕事しかしない人もいる。筒井は前者であり、ぼくはどちらかと言えば後者だった。なので、エリートの気持ちなんてわからないし、考えたこともない。
ただ、個人的な経験上、偏差値の高い人にはそれなりに頭の働く人が多い。もちろん全員ではないが、能力の高い人が比較的、多い。性能の良い頭があって、やる気さえあれば、何かに挑戦しても、うまくいく確率は高いはずだ。
筒井は出来る男である。会社人間で、家庭を顧みなかったため、娘とは若干(あくまで若干)うまくいっていないが、それは致し方ない。会社で偉くなるには、莫大な時間を仕事に費やさなければならない。偉くなったら、更に時間が必要になる。家族とゆっくり過ごす時間はない。ふと気づくと、子供が大きくなっている。知らぬ間に生意気になっている。
筒井は筋金入りの仕事人間だが、帰省したときに起きた一連の出来事を契機として、考えを改める。立ち止まって、別の価値観にシフトする。
つまり
子供の頃の夢だった“一畑(いちばた)電車”の運転士になる。齢49にして、一畑電車株式会社に中途入社する。一畑電車運転士の研修は東京の京王電鉄で行われる。筒井は京王の車両で運転を学び、無事、実技試験をパスする。
視聴前は、おっさんのサクセス・ストーリーかと思っていたが、実際に観てみると、ちょっと趣が違った。筒井は能力の高いおっさんだ。人間として優れている、成熟している。そういう人は何をやらせても、うまくいって当然なのだ。
本作品は人生に行き詰まったおっさんが苦労して栄光を手に入れる話ではない。メインはポジティブな人間ドラマだ。筒井の同期運転士で、拗ねた若造の宮田(三浦貴大)が、思った以上によかった。