あとがきによると、本書は第一章を除けば、他分野の研究者たちによる第一次世界大戦(=WW Ⅰ)史研究とのこと。
雑感
本書後半では、民衆心理という検証の難しい対象を取り上げ、WWⅠ開戦の直接的な原因がそこにあると結論づけている。
つまり、植民地獲得競争はあくまで直接的な原因ではないとされる。中学・高校で習う3C政策3B政策は地政学的にかすりもしない。
開戦原因をもう少し掘り下げて言えば、民衆心理と各国内政との相互作用である。
当時のヨーロッパは経済的な相互依存関係を保っていたものの、その恩恵に浴していない人々への配慮を欠いていた。それは“繁栄の中の苦難”であり、資本主義の矛盾が指摘されるようになり、社会主義勢力の伸張を招いた。各国はそれに対抗すべく、ナショナリズムを利用。不満は仮想敵国を生み、愛国心は仮想敵国への敵愾心へと結びついた。愛国熱狂は社会主義勢力の中にあった平和主義及び、戦争を防ごうとする力を一蹴した。ロマン・ロランのような平和主義者でさえ、愛国熱狂には配慮を要した。
各国は自衛戦争として兵を動かした。防衛はヨーロッパの思想では正当な行為であり、反戦や平和と対立する考えではなかった。
こうして、夏に始まったWWⅠはクリスマスには終わるだろうという甘い予想に反して何年も続き、多大な犠牲と経済的破滅、WWⅡの火種を生んで終わりを迎えた。
まとめ
経済的な相互関係があっても、敵愾心・ナショナリズムにより戦争は起こった。それはそのまま、現代の日本と周囲の国々にも当てはまる。つまり、WWⅠの開戦原因を追求することは、現代の日本にとって意義のあることなのだ。
本書に、そうあった。
決して、あり得ない話ではないだろう。
WWⅠは、長大な塹壕線と長期戦、兵器の発達や動員数の莫大な増加により、悲惨な戦争になったわけだが、今後起こるかもしれない大戦はその比ではない。我々の想像を絶する地獄になることは間違いない。
閣議で勝手に決められないように、また、自分らが愛国熱狂乱舞しないように、我々は目を光らせていなければならない。