町の歯医者で診察を待っていた。
平日にもかかわらず、そこそこ混んでいた。お年を召した方が多かった。
自動ドアが開いた。でかいアディダスの白スニーカー。がっしりしている。ほぼ坊主だが、上のほうだけちょっと伸ばしていて、明るめのチョコレート色に染めていた。肌は浅黒い。マスクで隠されていない部分では、深い皺が波打っていた。受付女性が、朗らかに挨拶する。男は、受付女性に不貞腐れたような挨拶的会釈を返した。スニーカーの踵を擦り合わせて脱ぎ、昔の便所に置いてあったような緑のスリッパを履いた。受付を済ませると、おれの隣の隣にドンと座って脚を組んだ。立派な太腿を人差し指でとんとんし始めた。とんとん、とんとん、とんとんとんとん
待合室の空気に色をつけるとしたら、黒青色だ。男の苛つきが待つことの苦痛を引き立てた。自動ドアが開いた。おばあさんだった。受付の女性に挨拶すると、ゆっくりゆったり靴を脱いで、便所スリッパに足を入れた。ちまちま歩いて受付前、鞄をまさぐって診察券をカウンターに載せる。男が立ち上がる。どぞ、と言って、待合室隅の壁の掲示板に向かった。おばあさんはこくりと会釈して腰掛けた。隣のじいさんが呼ばれた。