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実話に基づく物語
個人的には久々のウィル・スミス主演作。演じるのは、医師オマル。監察医であり、学位をたくさん持つインテリである。『検屍官』シリーズのドクター・スカーペッタみたいな人物か。とにかく、秀才であることは間違いない。仕事はきっちりやるが、独特なこだわりがあり、要領がよくないので、上役とはあまりうまくいっていない。学歴があるからといって、評価されるわけではないのだ。
物語は、オマルが元NFLのスター選手であるマイク・ウェブスターと出会うことで大きく動き出す。
ウェブスターはNFLの殿堂入りも果たした往年の名選手だが、すっかり落ちぶれていた。金もなく、仕事もなく、思考と精神の障害に苦しんでいた。かつて在籍していたチームのドクターに助けを求めるも、どこが悪いのかよくわからない。CTスキャンの結果も異状なしだったが、ほどなくして心臓発作を起こし、息を引き取る。享年50歳。
オマルはウェブスターの検死を担当する。初対面である。遺体に話しかけながら検死を進めるオマル。死体には様々な情報が蓄積されている。オマルは細部まで読み解くことができる。凡人が見落とすような違和を見逃すことはない。
ウェブスターの死因は心臓発作に違いないものの、頭部に重大な損傷が認められた。原因はアメフトにある。今でこそよく知られたことだけれど、当時は違った。オマルがアメフトによる頭部損傷を発見したのだ。
人間の脳は60Gで脳震盪を起こす。アメフトにおいて、タックル等の接触により頭部にかかる衝撃は一回につき100Gだ。鍛えたからといって、どうにかなる問題ではない。脳を衝撃から守る訓練などない。
オマルによると、子供時代からプロに至るまでのアメフト人生で、とてつもないダメージを受け続けたウェブスターの脳は、キラータンパク質を生んだ。キラータンパク質は認知機能の低下を引き起こし、精神を蝕み、アルツハイマーのような症状を招く。
CTスキャンでは異常を見つけることができず、脳の組織を顕微鏡で見なければわからない。それは慢性外傷性脳症(CTE)と名づけられた。オマルと他のドクターとの共著によるCTEに関する論文は医学誌に掲載される。
NFLにとっては歓迎できない事態だ。
アメフトが脳に損傷を与えるスポーツと思われるのは、何としても避けたい。そのためにはオマルを潰さなければならない。NFL側の主張はこんな感じだ。
“選手たちにそのような症例はない。そもそも臨床データが少なすぎるし、フットボールに起因する根拠もない。解剖しかできないヤブ医者の分際で何がわかる?”
オマルには選択肢が二つある。
NFLに屈して論文を撤回するか、苦難を覚悟して真理を守り、貫くか。
NFLは強大な組織だ。自治体も、州立大学医学部も、FBIも、彼らの味方だ。熱狂的なアメフト・ファンの反感を買い、敵に回すことにもなる。戦ったところで、個人が勝てる見込みはない。
とはいえ、真実を永遠に隠し続けることも、ひじょうに難しい。
2015年アメリカ