ザリガニの鳴くところで
湿地で暮らす少女カイア。戦争PTSDに苦しむ父の暴力により家庭は崩壊、母も姉も兄も家から去り、遂には父も蒸発。カイアは独りで生きていかなければならなくなる。
少女は無力だった。できることと言えば、ムール貝を採り、町の商店に売ることだけだった。商店を営むアフリカ系アメリカ人夫婦はキリスト教的な愛を実践するような、素晴らしい人格者で、孤独な少女カイアを支えていく。
舞台はノースカロライナ。白人富裕層中間層による白人貧困層(プアホワイト)への露骨な蔑視。ハックルベリーの境遇が頭を掠める。
ミシシッピ川の湿地帯は、鬱蒼としていて、羽虫だらけで、じめじめしたイメージだった。映画や小説で取り上げられるときは大抵、おぞましい現場だったりするが、本作品では美しく、生命の豊かな営みが描かれる。白雁の群れが沼に舞い降りるシーンなど、自然の瞬間的な煌めきにはハッとさせられた。
メイン・ストーリーは、孤独で、時に心ない差別を受けるカイアと、2人の青年による三角関係。青年2人のうち、一方は金持ちのぼんぼん、もう一方が優男の優等生。彼らは正反対に見えて実はデリケートで、心からザリガニの鳴くところを求めているのだった。