失う物語
メタル・バンドのドラマー・ルーベンが聴力を失う。想像するまでもないことだが、人生=音楽の彼にとって、音を失うことはとてもつらいことだった。
そういう状況のとき、人は怒り、悲しみ、もがく。そうしてそのあと、諦念、受容、再生へと続く道を見出せるかはその人次第だ。
荒れて、してはいけないことをしたり、思いあまって自裁したりと、復活することができない人もいる。
ルーベンは諦めずに、あくまで抗うことを選ぶ。とはいえ、その方法でうまくいっても、元に戻れるわけではない。得られるのは、ミュージシャンにとっては耐え難い、ノイズの響き渡る世界だ。
本作品では失聴がテーマになっているが、このストーリーは他の病気や障害にも当てはまる。普遍的だから、力がある。
人との関わりの大切さも、改めて教えてくれる。人は他人と接することで、自分を知ることができる。自分という輪郭がハッキリしてくる。
自分を知り、素直に受け入れることが、再生への第一歩となるようだ。