Le Retour du héros
嘘で英雄になった脱走兵が、更なる嘘を重ねるコメディ映画。2018年公開、フランス・ベルギー合作。監督はローラン・ティラール。出演はジャン・デュジャルダン、メラニー・ロラン。
ヌヴィル
時は1809年。ナポレオン1世の絶頂期。ヌヴィル大尉はさる令嬢にプロポーズする。令嬢ポリーヌは承諾するものの、その日に、大尉はオーストリア戦役に召集されてしまう。
気まぐれなヌヴィルはポリーヌに一通の手紙さえ出さない。ポリーヌは悲しみに暮れ、食事も喉を通らない。やがて、体を壊す。
ヌヴィルを嫌っていたポリーヌの姉・エリザベッタは妹を元気づけるために、ヌヴィルのふりをして手紙を書く。ポリーヌは見事に騙され、健康を取り戻す。
創作の歓びに浸るエリザベッタは、散々、ヌヴィル英雄譚を送りつけたあとで、ヌヴィルを亡くなったことにする。立派な墓まで建てる。ポリーヌは新たな恋に踏み出す。
だが、ある日、ヌヴィル大尉が町に戻ってくる。オーストリア戦役でフランスは勝利したわけだが、ヌヴィルは軍服でさえなく、不潔極まりない格好をしていた。
妹思いの姉
エリザベッタは偶然町で、薄汚くなったヌヴィルを見かける。彼女の睨んだ通り、ヌヴィルは脱走兵だった。
だがエリザベッタは脱走のことなどどうでもよく、結婚したポリーヌのことを気にかけていた。ポリーヌには子供もいる。会わせたら、ろくなことにならない。
エリザベッタはヌヴィルになりすまして、ポリーヌに手紙を書いたと真実を話す。手紙では、英雄ヌヴィルは亡くなり、手厚く葬られたことになっていた。ヌヴィルが現れたら、混乱するだけである。
エリザベッタは金を渡して、町から出るように迫る。ヌヴィルは承知するも、翌日、ポリーヌに会うため屋敷にくる。小綺麗な、騎兵隊の大尉として。英雄ヌヴィルとして。
嘘の上塗り
ヌヴィルは一文なしで、名誉も失っていた。何も持たない彼は、自分のことを知る人々を前にして、英雄を演じることに決めていた。だが、話のストックは使えば、尽きる。客は新たな話を求める。ヌヴィルには新たな冒険譚を仕入れる必要があった。
一方、エリザベッタは自分の嘘がバレるのは避けたかった。
2人の望みが一つの方向に向かう。つまり、エリザベッタとヌヴィルは嘘の共犯関係となる。エリザベッタがヌヴィル英雄伝説のシナリオを書き、ヌヴィルは訪問客の前で英雄ヌヴィルを演じる。奇しくも、エリザベッタは演出家兼脚本家となり、ヌヴィルは役者になった。
おわりに
受ければ受けるほど、ヌヴィルは調子に乗る。アドリブで話を大きくすることなど朝飯前である。問題は話の全てが【嘘】であることだ。物語の【嘘】は大抵、ばれる。我々は図らずも、ハラハラしながら嘘つきのおっさん・ヌヴィルを見守ることになる。
ヌヴィルは偽りの自分をかなり巧みに演じる。器は小さく、腹黒く、いい加減な男だけれど、詐欺師の才はあるようだ。