Der Spiralig Burgruine
はじめに
第二次世界大戦末期から戦後にかけてのドイツ。物語は三部構成になっている。第一部で描かれるのは、マルガレーテの出産と結婚、家族。第二部では、敗戦でバラバラになったマルガレーテの家族や元貴族の恋人。第三部では、元貴族の恋人が所有する城を巡る幻想的な物語が綴られる。
レーベンスボルン(生命の泉)
ナチスの運営する児童施設“レーベンスボルン”には、北欧系アーリア人の子を育成する使命が課せられていた。
北欧系アーリア人の外見的な特徴とはすなわち、金髪と青い瞳であった。ナチスはポーランド人を蔑視していたが、金髪と青い瞳を持つポーランドの子供は攫うなどして施設に連行、ドイツ人として育てた。
レーベンスボルンでは、北欧系アーリア人的な未婚女性の出産も可能だった。レーベンスボルンに行けば、タダで食事が出る。出産費用もかからない。だが、手元で育てることはできなかった。生んだ子はナチスの養子になるか、どこかへ送られるか、のどちらかだった。
どこか…おそらく収容所みたいな施設に送られるのは、アーリア人的ではない子供たち、金髪でも青い瞳でもない子供たちだった。
マルガレーテ
フラウ・マルガレーテ。本作品の主人公だ。ミュンヘンで妊娠。お相手は貴族で、西部戦線に出征。結婚はしていない。彼女は事情があって、生計を立てることが困難になり、レーベンスボルン本部に駆け込む。アーリア人的なマルガレーテは、とある村のレーベンスボルンへの受け入れが認められ、看護師をしながら出産することになった。
施設のトップ
レーベンスボルンでいちばん偉いのは医師である。彼は音楽に情熱を抱いていた。もともと合唱団に所属していたが、声変わりにより辞めざるをえなかった、という過去を持っている。彼は施設で、才能のある少年にオペラ教育を施していた。その少年を養子にしたいと切望していたが、医師でSS大尉である身分であっても、独身では許可されなかったので、マルガレーテに求婚する。
結婚
マルガレーテはレーベンスボルンで出産した。アーリア人的な男の子だった。ひとまず、どこかへ送られることはないが、このままでは引き離され、SSの養子になる運命だった。
北欧系アーリア人を増やすのは国策だった。北欧系アーリア人をナチスの家庭で育てることが奨励された。子をたくさん生む女性は手厚く保護され、勲章を贈られた。
マルガレーテは息子を手放したくなかった。そのため、好きでもない医師のプロポーズを受け入れることにした。
物語は、マルガレーテの追憶、夢、ナチの思想、オペラ、狂人、戦況が絡み合って不穏に進んでいく。
特に、レーベンスボルンの看護師たちの性格が悪すぎて、むかむかしてくる。それだけ、リアルということか。
おわりに
以上、第一部を成すファクターである。自分にとって、実はけっこう入りづらい作品だった。なかなか物語に没頭できなかったのだ。
だが、一部の込み入った話が展開する二部からは読むスピードが上がった。第一部の主人公マルガレーテは遠景に潜み、その関係者が混乱する戦後を駆け回り、物語を牽引する。
二部以降についてはあまり触れまい。ネタバレすると、台無しになる。どこかで偶然この本を見かけたら、是非ご一読を。キーワードは、元ナチのマッドサイエンティスト、カストラート、メタフィクション、古城…
謎が謎を呼ぶ終わり方だ。何が真で何が嘘か…?考えようによっては、ほぼ嘘という解釈も成り立つだろう。