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安達正勝『死刑執行人サンソンー国王ルイ十六世の首を刎ねた男』集英社新書


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死刑執行人サンソン

ムッシュー・ド・パリ

パリの死刑執行人は、ムッシュー・ド・パリと呼ばれた。一家は不可触賎民としての扱いを受け、社会から隔離された。婚姻は基本的に、死刑執行人の家系同士で行われた。

サンソン一族

ルイ十六世の首を刎ねたのは、四代目のサンソンだ。ここで疑問となるのは、初代サンソンはなぜ、死刑執行人になったかである。犯罪でもしたからか、または王の怒りに触れたからか…

いや、どちらも違う。

初代サンソンが死刑執行人の娘を好きになり、結婚したから、死刑執行人になるしかなかったのである。愛と運命の悪戯が初代サンソンを衝き動かしたのだ。

皆川博子『聖餐城』集英社では、主人公アディと死刑執行人の娘の悲恋が描かれている。もちろん、死刑執行人の差別も詳述されていて、勉強になった。恋愛に身分制度が入り込んでくると、ロクなことはない。

収入

但し、ムッシュー・ド・パリは裕福だった。国による調整が入る前、三代目までは広大な土地を持ち、休暇は狩猟をして過ごした。貴族同様、免税特権もあった。四代目以降も、労働者より所得は遥かに上だった。推測だが、それほど恵まれていたのは、フランスだからだと思う。

四代目サンソン

本書の主人公は四代目である。革命前夜に起きたマリー・アントワネットの首飾り事件やフランス革命時の当主だ。彼は死刑執行に際し、なるべく苦痛を与えないような方法で実施することもあった。裁判所から情状酌量の意味をこめてそう指示されることもあったけれど、独断でするときもあった。敬虔なカトリック教徒で、国王・王妃を支持していた。死刑執行人は国王に委任される立場にある。急進的な思想には馴染まなかった。

ギロチンの誕生

フランス革命と言えば、ギロチンである。ギロチンは元々人道的な発想から誕生した。貴族も民衆にも同じ方法で、最小限の苦痛で、執行するためだった。それまでの刑罰には、かなり残酷なものもあったので、当時の感覚ではギロチンが人道的な装置に思えたのだろう。なお、当初、半円月形だったギロチンの刃は、学識豊かなルイ十六世の助言により、斜めの形に改められた。皮肉にもルイ十六世はギロチンで刑を執行されることになる。



おわりに

特に印象的だったのは、四代目サンソンがルイ十六世の処刑に携わる場面だが、詳細は本書に譲るとして、執行人の責務には色々と考えさせられた。

当時の刑には見せ物の要素もあった。執行時に不手際があったら、見物人が暴動を起こし、執行人が襲われ、命を奪われることもあった。まさに命がけの仕事だったのだ。

フーコーの著作にも書かれていたことだが、時代が下っていくのと比例して、刑罰は洗練され、不可視の性格を帯びていく。今後どのように変容していくのかはわからないが、“進歩”していくことは間違いないだろう。