〝あ、かあさん〟
白髪で小さな女性利用者を見ると、ある男性利用者が反応する。
白髪で、小さな老女なら誰でも、奥様に見えるらしい。顔ではなく、毛髪と身長で把握しているところが面白い。
もちろん、奥様ご本人が面会にきたときも
〝あ、かあさん〟
と言う。奥様のことが本当に大切らしく、奥様の心配ばかりしている。
基本的に温厚で、人当たりのいい方だが、時々、興奮状態となり、わざわざ白髪で小さな女性利用者を見つけて、怒鳴る。
〝かあさん、何やってんだ!〟
〝早くこい!〟
〝おれは帰るよ!〟
そういうとき、職員は〝かあさん〟と間違えられた、女性利用者の介護シューズを指差す。と…
〝あ、かあさんじゃねーや〟
大抵、納得する。
奥様はいつも白いアディダスを履いている。