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実話に基づく映画。ということは、かなり脚色されているのだろうが、映画にするほどの軌跡を残した人物であることは間違いない。
とあるダイナーに一組のカップル。男は不器用だが優しく、女のほうは若干前のめりで、洗練されていない。熱く燃え上がるような雰囲気ではない。一歩一歩着実に進んでいくような関係性だ。彼らは貧しいながらも、結婚する。
新郎の名はリッチー(マイケル・シャノン)
新婦の名はデボラ(ウィノナ・ライダー)
リッチーの仕事はアダルト・ビデオのダビングだ(妻は真相を知らない)。ネットの普及とともに、廃れていった産業である。もちろん、大っぴらにできる仕事ではない。裏社会とも、つながっている。
ある日、リッチーは手違いから納期を守ることができず、ギャングのボスであるロイ(レイ・リオッタ)に因縁をつけられるものの、度胸を認められる。
以後、リッチーはロイのために、警護と取立をすることになる。もちろん、殺しもだ。
リッチーは仕事に励む。才能というか、適性があったようで、殺し屋として成功する。米国犯罪史上まれに見る、最悪の殺し屋アイスマンの誕生だ。『トップガン』のアイスマンとは、無論、関係ない。事後の処理をするときに、ターゲットを凍らせて、死亡推定時刻をわからなくさせることと、冷酷なことからつけられた異名である。
そんなリッチーも、家庭では善き夫、善き父だ。殺しで稼いだお金で、家族に贅沢な、申し分ない暮らしをさせることができた。高級スーツに身を包み、友人らにリッチなディナーをおごる。殺し屋も、うまくいっているときは、よく笑う。
だが、いいときは長続きしない。
不手際から、ロイに解雇される。リッチーは途方に暮れる。彼は殺しのほかにできることがない。殺しをしないと、ゴージャスな生活を維持することができない。彼はまた殺し屋になる。
ウィノナ・ライダーは年を重ねても、ウィノナ・ライダーだった。もちろん、かつてのピチピチ感はなく、幸薄い雰囲気(失礼)をまとい、狂人めいた目つきをしているものの、若き日に強烈な光を放った女優さんとしては、色々あったにせよ、比較的順調なほうだろう。今後の活躍にも、大いに期待したい。