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不気味なほど思考力の乏しい青年・トジュン。
彼は母と暮らしている。母はトジュンを溺愛している。くどいので、息子のほうは疎ましく思っている。仕事はしていない。悪友と遊んだり、ほっつき歩いたりして無為に過ごす。
だがトジュンには無為・徒労という発想はない。漠然と思いついたことをして生きている。深読みすることもできなければ、抽象的な物事を理解する能力もない。言わば、全く行間の読めない人間である。
ある日、トジュンは金もないのに飲み食いし、酔っ払う。家への帰り道、女子高生を見かける。トジュンはなんとなく、女子高生のあとを歩いていく。帰宅すると、母の横で寝る。
翌日、女子高生の遺体が発見される。トジュンは殺害の容疑で逮捕され、取り調べを受ける。適当な取り調べだ。トジュンは事件の経緯と自白文がプリントされた紙を渡され、拇印を押すよう言われる。彼は、拇印を押せば罪を認めることになる、ということがわかっていない。そこまで、頭が回らない。そういう青年なのだ。トジュンは拇印を押して、殺人犯となる。実際に犯行に及んだかは、この際、関係ない。
母はトジュンの無実を信じる。容疑を晴らすため、動き回る。母の執念と一途な思いはやがて、実を結ぶ。母自身思ってもみなかった“歪な果実”が、我々観客の前に差し出される。母子の愛憎に満ちた関係が重い。
それで、全てを忘れることはできるのだろうか?