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『わたしは、ダニエル・ブレイク』2016年 英仏 / 監督 ケン・ローチ


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What's it about ?

初老の市民ダニエル・ブレイクが不条理な福祉制度の犠牲になる。

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ダニエル(デイヴ・ジョーンズ)は元大工。

心疾患により、足場から転落して以降、医師から仕事を止められている。実直な人柄で、社会人としての義務は果たしてきた。奥さんは他界している。子供はいない。


ダニエルの収入は、支援手当(生活保護のようなものか)のみだ。それにより、質素な生活を送っていたが、ある日、突然、事情が変わる。


福祉制度というのは、ころころ変わるもので、皺寄せは受給者に向かう。感覚としては、朝令暮改だ。


ダニエルは“支援手当”給付の審査を受けるものの、係員(政府の委託業者社員)の対応はマニュアル通りで、素っ気ない。

推測になるが、給付資格の要件が変わったらしく、ダニエルは受給できなくなった。つまり、収入が途絶えるということだ。仕事はできないし、死活問題である。生活保護を受けなければ生きていかれないのに、審査に落とされたようなものだ。

ダニエルは当然、再審査を請求しようと試みるが、簡単には請求できない仕組みになっている。誰も、仕組みは変えられない。福祉担当者・関係者に熱意などはなく、お役所仕事というか、とにかく融通が利かない。ダニエルはうんざりする。


彼の選択肢は少ない。


職業安定所で、求職者手当(雇用保険)の申請を勧められる。働けないことを伝えると、“支援手当”の給付を受けるように言われる。“支援手当”は既に審査に落ちていて、再審査請求のために四苦八苦しているところだ。おそらく、時間がかかる。国は個人の事情など、考えないからだ。


ダニエルは結局、求職者手当で食いつなぐ。雇用保険みたいなものだから、働く意志を示さないといけない。彼は働けないのに、わざわざ履歴書を書いて、就職活動をする。働けないから、採用を前提とした面接にきてくれと雇用主側に言われても、どうしようもない。事情を説明しようとするが、もちろん相手はわかってくれない。


もはやカフカ的な世界だ。

一度踏み込んだら抜け出すことはできない。事態は徐々に悪化する。




福祉関連の手当には難しい面もある。うまくやっている人もいれば、苦しんでいる人もいる。福祉の世界でも、世渡り上手は得をする。ダニエルのような、真面目で、頑固で、不器用な人は、残念ながら、損するようになっている。人としては、素晴らしいのだ。差別はしないし、若者ともうまくコミュニケーションを取る。困ったシングルマザーがいたら、助ける。助けが必要なのは自分なのになんでこの人は…


うまく生きてきた方が観たら、ダニエルはバカだと思うかもしれない。だがよく考えてみてくれ。誰にでも、うまくいかないときはあるだろ? そういうときはみんな、迷路をさまよっているようなものだ。人によって出口は異なるが、その出口がどんなものであれ、バカにしてはいけない。ツキのない人間は愚かに見えるだけだ。そう見えるだけで、決して、愚か者ではない。