ずいぶん前の話になるが、お世話になった先輩が、“飽きた”という一身上の都合で施設を辞め、別の施設(特養)に転職した。
我々よくしてもらった後輩は、居酒屋を予約し、嫌がらせで豪勢な花束をあげた。女性は別かもしれないが、男で花束を欲しがる人は少ない。花束抱え電車乗って帰るなんて、罰ゲームである。しかも、途中で捨てづらい。邪魔。帰宅しても、邪魔。
だが先輩は最後だから、色々思うことがあったのだろう。花束を大切そうに抱いて帰路についた。湘南の某駅北口で別れるとき、先輩は言った。
「新しいところに慣れたらまた飲もう」
先輩から電話がきたのは、翌年だった。とりあえず会おうということになり、駅近くの飲み屋に入った。
「仕事、やめようと思う」
先輩が言った。
「え?」
思わず、身を乗り出す。
先輩の不満を要約すると、③点に絞られる。
①面接のとき、事務方の偉い人に提示された給与を払ってもらえない。年収にすると、50万円ほど低い。無職になりたくないし、他を探すのも面倒だし、そもそも提示された証拠なんてないから、今までは我慢してきたが…
②やたら休む職員がいる。しかも、何人かいる。そのせいで、しわ寄せがきて、休日出勤をするはめになる。残業もかなりある。夜勤が終わっても、帰れない、サービス残業もしている。もう疲れた。
③有給休暇が取れない。ある日、先輩が
「有休取りたいんですが」
所属長に言ったら
「有休はこっちで管理するんで」
と当たり前のように言われたらしい。
うちのようなブラックでも、一応、交渉するフリはしてくれるのに…ひどい!
「そんなとこ、辞めたらいいですよ」
勢いで、ぼくは言った。酒が入ると、威勢のいいことばかり言う。思わず、宝くじを買ってしまうこともあるし、いらんことを口走る。
「今日はおれが出しますんで、どんどんいっちゃってください」
「悪いな」
先輩は結局退職して、うちに戻ってきた。前と変わらず、何事もなかったかのように、自然な感じで、溶け込んでいる。
転職するときは、下調べが重要である。